はじめに
ビジネスの世界では「売れる仕組み」をいかに作るかが問われ続けています。技術革新、価格競争、広告戦略……どれも重要な要素ですが、結局のところ「モノを買うのは人間」です。そして、人は「論理」だけで動いているわけではありません。「感情」こそが、最後の決め手になるのです。
本記事では、書籍『「心」が分かるとモノが売れる』(菅原健一 著)をもとに、「人の心を動かすビジネス」の本質について掘り下げていきます。顧客の心理を読み解くことで、商品やサービスをより多くの人に届けるための実践的ヒントを得ていただければ幸いです。
1. 「心が分かる」とはどういうことか?
ビジネスにおいて「心が分かる」とは、「顧客が何を求め、何を恐れ、どんな感情で動くのかを理解すること」です。それは単に属性データを集めるマーケティングではなく、人間の内面に深く入り込む視点です。
菅原氏は著書の中で、「売ることの本質は、“相手を知ること”だ」と語ります。売ることは、説得ではありません。共感と理解によって「その人の欲求に応える行為」なのです。
例えば、「高級な腕時計」を売る場合。
「この時計は素材が良いです」「精度が高いです」と機能面でアプローチするよりも、
「あなたの成功と自信を象徴する一本です」と語りかける方が、圧倒的に響きます。
それは「商品」ではなく、「その人が手に入れたい未来」を提示しているからです。
2. 顧客の「感情」が購買を決める理由
人は論理で納得し、感情で行動する。
この心理原則をビジネスに活かすことができれば、販売力は劇的に変わります。
『「心」が分かるとモノが売れる』では、購買の意思決定における「感情の重み」に焦点を当てています。
例えば、以下のような心理が購買に直結します:
- 「不安」から逃れたい(保険、セキュリティ、健康食品)
- 「自分らしさ」を表現したい(ファッション、ライフスタイル商品)
- 「所属・つながり」を感じたい(SNS、ブランドコミュニティ)
- 「優越感」を得たい(高級品、プレミアムサービス)
つまり、顧客の“感情ニーズ”を理解し、そこに応える言葉や演出を用意することが重要なのです。顧客は製品を買っているのではなく、「その製品を通じて満たされる感情」を買っているのです。
3. 売れる商品に共通する“共感”の構造
人は自分と似た価値観や世界観を持つブランドや商品に惹かれます。これは「共感」による購買行動です。
菅原氏は、「ターゲットを理解するのではなく、ターゲットになること」と説いています。マーケティング担当者がデスクの上で“顧客像”を想像するのではなく、実際にその人たちの生活の中に入り込み、同じ目線で物事を考えることが必要です。
実際、多くのヒット商品は開発者自身が「ターゲットそのもの」だったケースが多くあります。たとえば、子育て中の母親が開発した育児グッズ、現場で働くエンジニアが開発した業務ツールなど。彼らはユーザーの気持ちが“痛いほど分かる”からこそ、心に響く商品が作れるのです。
4. 心を動かす「ストーリー」の力
論理的な説明よりも、感情を揺さぶるストーリーの方が記憶に残ります。
アップルが単なるガジェットメーカーではなく「クリエイティブな生き方の象徴」としてファンを獲得しているのは、商品の性能よりもその“ストーリー”が多くの人の心に響いたからです。
『「心」が分かるとモノが売れる』でも、「物語性が人を動かす」と繰り返し述べられています。ストーリーには以下のような力があります。
- 共感を生む(自分ごととして感じる)
- 感情を動かす(怒り、笑い、涙)
- 記憶に残る(数値よりも情景)
つまり、マーケティングにストーリーを取り入れることで、顧客の心の中に「あなたのブランド」を居座らせることができるのです。
5. 心理トリガーと購買行動の関係
行動経済学や心理学でも知られている「心理トリガー(感情的な引き金)」を知ることは、売れる仕組み作りに直結します。例えば以下のような要素です。
心理トリガー | 例 |
---|---|
希少性 | 「限定100個」「残りわずか」 |
社会的証明 | 「みんな使ってる」「レビュー1000件超」 |
権威性 | 「医師監修」「業界No.1」 |
一貫性とコミットメント | 「一度試したら続けたくなるサブスク設計」 |
返報性 | 「無料プレゼント」「試供品」 |
菅原氏は、これらのテクニックをただ使うのではなく、「なぜ人がそれで動くのか?」という心のメカニズムに注目するよう促します。
「売り込む」のではなく、「心の自然な流れに寄り添う」こと。これこそが現代のマーケティングに必要な視点なのです。
6. ビジネスで「心」を読む5つの実践ステップ
最後に、実際にビジネスで「心」を理解し、売上アップにつなげるための5つのステップを紹介します。
① 顧客インタビューを徹底する
データ分析よりも、実際の会話で「生の声」を拾うこと。感情が現れる言葉に注目しましょう。
② 「Why」を5回繰り返す
顧客がなぜその商品を欲しいのか、なぜ今なのか、なぜ他ではダメなのか…と、根本の欲求にたどり着くまで深掘りします。
③ ターゲットになりきる
その人の一日を追体験することで、気づける“感情の波”があります。
④ ストーリーテリングで伝える
商品の開発背景や、利用者の変化をストーリーに乗せて発信しましょう。
⑤ テスト→改善→共感の連鎖
一発で正解を狙うのではなく、小さな共感を積み重ねながら検証・改善を続けるプロセスが重要です。
まとめ:「モノ」ではなく「心」を見よ
「売れる」ことに悩むビジネスパーソンが見落としがちなのが、“顧客の心”です。どんなに良い商品でも、感情に届かなければ人は動きません。
『「心」が分かるとモノが売れる』は、ビジネスの本質を「人間理解」にあると教えてくれる一冊です。論理よりも感情。機能よりも意味。商品よりも体験。
これからの時代、売れる企業・ブランドになるためには、顧客の「心の声」に耳を傾け、それを商品やサービス、コミュニケーションに落とし込んでいく力が問われているのです。
あなたのビジネスは、顧客の心とつながっていますか?
書籍情報
書名:『「心」が分かるとモノが売れる』
著者:鹿毛康司(かげこうじ)
出版社:日経BP
発売日:2021年5月20日
ページ数:228ページ
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