ビジネスの現場で「優秀なプレーヤーが、必ずしも優秀なマネジャーになれるわけではない」と言われることがあります。リーダーシップの本質とは何か、マネジメントに必要な思考とはどういうものか──これらの問いに対して、鋭く、かつ具体的な答えを提示してくれるのが、安藤広大氏の著書『リーダーの仮面』です。
本書では、感情を排し、あえて「仮面」をかぶることで成果を最大化するリーダー像が描かれています。今回はこの『リーダーの仮面』のエッセンスをビジネスの視点から深掘りし、現代のリーダーに必要な考え方を解説していきます。
プレーヤーからマネジャーへ:頭の切り替えが最初の壁
多くの人は、成果を上げてプレーヤーとして認められることで昇進し、マネジャーとなります。しかし、ここで多くの人が「自分の延長線上でマネジメントをしよう」として失敗します。
安藤氏は「マネジャーになった瞬間、思考の土台を完全に切り替えなければならない」と語ります。プレーヤーとしての評価軸は「自分の成果」ですが、マネジャーに求められるのは「チームとしての成果」です。つまり、役割がまったく違うのです。
ここで必要になるのが、「仮面」をかぶること。人間味や感情ではなく、組織の成果を最優先する冷静な判断力が必要とされるのです。
リーダーの思考法①:ルールの徹底で迷いをなくす
マネジメントの第一歩は「ルール」です。安藤氏は「曖昧なルールは迷いと不公平を生む」と指摘します。
たとえば、遅刻に対する処分が人によって違えば、組織内には不満や混乱が生まれます。ルールは一貫していなければ意味がありません。
「ルールは冷たくていい。冷たさの中にこそ平等がある」
この一言に象徴されるように、ルールを明文化し、厳格に運用することが、部下の迷いをなくし、組織全体の動きをスムーズにします。リーダーが感情に流されず、ルールを軸に行動することが、部下にとっての安心材料となるのです。
リーダーの思考法②:立場で判断せよ。フラットな関係は組織を壊す
次に重要なのが「位置」の思考法です。これは、リーダーと部下の関係性に明確な線引きをするということです。
「部下と仲良くなろうとするマネジャーは、組織を壊す」と安藤氏は断言します。これは決してパワハラ的な上司になれということではありません。むしろ逆で、「リーダーとしての立場から、冷静に判断する」ことが求められているのです。
組織には「好き嫌い」ではなく、「成果を出すかどうか」という軸が必要です。友達のような関係性では、公正な評価や指導ができなくなってしまいます。だからこそ、リーダーは意図的に距離を保ち、「仮面」をかぶる必要があるのです。
リーダーの思考法③:個人よりも組織の利益を最優先せよ
「利益」の思考法では、「個人よりも組織の利益を優先する」視点が語られます。これは、非常に合理的でありながら、多くのリーダーが感情によってぶれてしまうポイントでもあります。
たとえば、部下が努力していても成果が出ていない場合、あなたは評価をどうしますか? 人間的な情としては評価してあげたくなりますが、組織の成果という観点では「結果がすべて」です。
「評価は結果に対してのみ行う」
これが安藤氏の一貫した考え方です。プロセスや努力を評価するのは教育であり、ビジネスの現場では通用しない。シビアですが、それが組織を健全に機能させる唯一の道なのです。
リーダーの思考法④:結果にフォーカスし、過程にこだわらない
「結果の思考法」では、まさに「アウトプット至上主義」とも言える考えが展開されます。安藤氏は「過程をいくら評価しても、顧客の満足にはつながらない」と述べています。
リーダーとして重要なのは、部下が結果を出せる環境を整えること。そして、出した結果に対して適切に評価し、次のアクションに反映させることです。
過程を重視する文化は、一見やさしく見えるかもしれませんが、最終的に組織の成果を曖昧にし、モチベーションを下げる原因にもなります。
「評価は過程ではなく、結果に対してのみ行う」
この姿勢が、チーム全体に明確な基準を示し、納得感のあるマネジメントにつながるのです。
リーダーの思考法⑤:部下を育てるのではなく、育つ環境をつくる
最後に「成長の思考法」です。多くのリーダーが誤解しがちなのが、「部下を育てる」というスタンス。安藤氏はこれを真っ向から否定し、「部下は自分でしか成長できない。リーダーの役割は、そのための環境をつくることだ」と説きます。
たとえば、失敗をさせないように細かく指示を出すリーダーは、一見優秀に見えますが、実は部下の成長機会を奪ってしまっているのです。
リーダーは部下に「自分で考えさせる」「自分で決めさせる」環境をつくること。そして、失敗したときは「なぜ失敗したのか」「次にどうするか」を問い直すこと。それが、真の成長を促すマネジメントなのです。
「仮面」をかぶる強さがリーダーには必要だ
ここまで5つの思考法を見てきましたが、共通しているのは「感情に流されず、成果を最大化する」という一貫した姿勢です。
● 感情に流されず、ルールを守る
● 好かれようとせず、立場を保つ
● 個人よりも組織の利益を優先する
● 過程ではなく、結果を評価する
● 育てるのではなく、育つ環境をつくる
これらは決して冷たいマネジメントではありません。むしろ、成果を出し続ける組織をつくるための、もっとも誠実で合理的な方法なのです。
リーダーとは、常に仮面をかぶる職業です。部下に好かれようとして、組織の軸をぶらしてはならない。だからこそ、安藤広大氏は「リーダーの仮面をかぶれ」と私たちに語りかけるのです。
おわりに:成果を出すマネジメントには「覚悟」が必要
『リーダーの仮面』は、マネジメントに迷いを抱えるビジネスパーソンにとって、明快な道しるべを与えてくれる一冊です。感情ではなく、成果を。仲良しではなく、信頼関係を。育てるのではなく、育てる環境を。
「冷たく見えるかもしれない。でもそれが、本当の優しさなのかもしれない」
成果を求められる現代のビジネスリーダーにとって、この本のメッセージは重く、しかし非常に実践的です。マネジメントに悩む方は、ぜひ一読して、自身のリーダーシップの軸を見直してみてはいかがでしょうか。
📘 書籍情報
タイトル:リーダーの仮面 ──「いちプレーヤー」から「マネジャー」に頭を切り替える思考法
著者:安藤広大(あんどう こうだい)
出版社:ダイヤモンド社
発売日:2020年11月
価格:1,650円(税込)
ISBN-13:978-4-478-11051-5
ページ数:288ページ
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