かつて、営業とは「気合・根性・人間力」がものを言う世界だとされてきました。先輩の背中を見て学び、ひたすら足で稼ぎ、最後は「人柄」でクロージング。そんな“昭和的”営業スタイルは、今なお多くの現場に残っています。
しかし、デジタル化が進み、顧客の情報リテラシーが高まった今、営業はもはや「運やセンス」に頼る時代ではありません。
そこで注目されるのが、小林大輔氏による著書『セールス・イズ 科学的に「成果をコントロールする」営業術』です。本書では、営業活動を**「再現可能な仕組み」**に変えることで、誰でも安定的に成果を出せる営業手法を提示しています。
本記事では、その内容をかみ砕きながら、現代ビジネスにおける“営業のあり方”を探ります。
「営業は科学である」――その意味とは
『セールス・イズ』の中で小林氏は、営業を「再現性のある行動の積み重ね」と定義しています。
つまり、営業で成果を出すためには、行き当たりばったりのアプローチではなく、「この行動をこのタイミングで取れば、こういう結果につながる」という因果関係を理解・数値化し、システムとして運用する必要があるということです。
これはビジネス全体にも通じる考え方です。
たとえばマーケティングでも、「クリック率」「コンバージョン率」「LTV」など、あらゆる指標が存在し、データに基づいたPDCAが回されています。
営業だけが属人的で、感覚的でよいはずがありません。
科学的営業術の3つの柱
本書で提唱されている営業の科学化には、次のような3つの重要な柱があります。
① プロセスの分解と数値化
まず重要なのが、「営業プロセスを細かく分解して、それぞれの段階を数値化する」ことです。
たとえば、
- アポ取得率
- 初回商談からの次回提案率
- クロージング率
- 平均受注単価
- 平均リードタイム
といった数値を明確にすることで、「どこに課題があるのか」「どこを改善すれば成果が伸びるのか」が明確になります。
これはまさに、KPIマネジメントの基本でもあります。
属人性の高い営業の世界においても、こうした“見える化”によって改善の糸口が見つかるのです。
② データドリブンで動く
営業活動も、マーケティングやプロダクト開発と同様、データに基づいて意思決定すべきだと小林氏は説きます。
たとえば、
- 商談の録音データをAIで解析し、成約率の高いトークパターンを抽出する
- 顧客属性と受注傾向を掛け合わせて、最も有望なターゲットを絞り込む
- メール開封率や反応時間などを分析し、最適な連絡タイミングを導き出す
こうした取り組みによって、営業は「勘に頼る行動」から、「論理とエビデンスに基づく戦略」へと進化します。
この考え方は、SaaSやIT業界ではすでに当たり前のように導入されています。たとえば、インサイドセールスとフィールドセールスを分業し、それぞれの役割をKPIで管理するなど、営業のプロセス自体が“ビジネスの仕組み”として設計されています。
③ 組織としての再現性
営業は「トップセールスがすごい」では意味がありません。重要なのは、「平均的なメンバーでも一定の成果が出せる仕組み」を作ることです。
つまり、「個人の才能に依存しない、誰でも再現できる営業モデル」の構築です。
これは、スタートアップ企業や急成長中のベンチャー企業において特に重要です。
限られた人材で、限られた時間で成果を最大化するためには、“型化”された営業メソッドが不可欠。トップセールスを「仕組み化」し、社内の教育・研修制度に組み込むことが、組織の成長スピードを加速させます。
科学的営業術がビジネス全体に与える影響
ここまで見てきたように、『セールス・イズ』は営業だけでなく、ビジネス全体の仕組み化・数値化を促すヒントに満ちています。
では、こうした“営業の科学化”が、実際のビジネスにもたらすメリットは何でしょうか?
● マネジメントがしやすくなる
営業プロセスが見える化されることで、マネージャーは「結果ではなく行動」にフォーカスしてフィードバックができるようになります。
「なんで数字を取れないんだ!」ではなく、「今月はアポ数が減っているから、テレアポのスクリプトを見直そう」という建設的なマネジメントが可能になります。
● 採用と育成が効率的になる
科学的な営業手法は、「誰でも成果が出せる仕組み」でもあります。つまり、営業未経験者であっても、きちんとしたトレーニングとサポートがあれば、短期間で戦力化できるということです。
これは人材確保が難しい昨今、非常に大きな強みとなります。
● 営業とマーケティングの連携が強化される
営業プロセスが数値で見えるようになると、マーケティング部門との連携もスムーズになります。
たとえば、「こういうリードだと商談化率が高い」といったデータを共有し、より精度の高いターゲティングやコンテンツ制作が可能になります。
成果を「再現」できる人材が、今後のビジネスを変える
小林氏は、営業を科学するという考え方の根底に、「再現性」の重要性を繰り返し説いています。
それは、営業だけでなく、すべてのビジネスに通じるテーマです。
- 優れたマーケターは、偶然ヒットした広告の裏にある因果関係を分析します。
- 優れたプロダクトマネージャーは、顧客の声を定量的に整理し、改善の方向性を見出します。
- 優れた経営者は、再現性のあるビジネスモデルを確立し、スケールさせます。
つまり、「成功体験を“構造化”し、再現可能なものにする能力」こそが、今後のビジネスパーソンに求められるスキルなのです。
おわりに:営業を「見える化」しよう
『セールス・イズ』は、単なる営業ノウハウ本ではありません。
これは、「営業という行動をビジネスの仕組みとして捉える」ための指南書であり、あらゆる職種に応用可能な“成果の科学”です。
もしあなたが、
- 営業成績にムラがある
- 属人的なやり方から脱却したい
- 組織として営業力を底上げしたい
と考えているなら、今こそ営業の“科学化”に取り組むときです。
感覚に頼るのではなく、仕組みをつくる。
属人性ではなく、再現性を重視する。
それが、これからのビジネスを加速させる大きな武器になるのです。
📘 基本情報
タイトル:Sales is 科学的に「成果をコントロールする」営業術
著者:今井晶也(セールスエバンジェリスト/セレブリックス セールスカンパニー CMO)
出版社:扶桑社
発売日:2021年8月27日(一般書店発売)
ISBN:978‑4‑594‑08874‑3
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