はじめに：「働く」とは何かを見失いかけたあなたへ
あなたは今、何のために働いていますか？
出世のため。生活のため。家族のため。夢のため。人によって様々な理由がありますが、ふとした瞬間に「働く意味」が分からなくなることは、誰にでもあります。
特にビジネスの現場で数字に追われ、上司や部下との人間関係に悩み、努力が報われないように感じるとき、その疑問は大きく膨らみます。
そんな時こそ手に取ってほしいのが、**森岡毅さんの『苦しかったときの話をしようか』**です。
本書は、USJのV字回復を実現させた伝説のマーケターである森岡氏が、娘に宛てて「働くことの意味」「苦しみとどう向き合うか」「どうすれば人生をより良くできるか」を語りかけた、まさに“人生とビジネスの指南書”です。
本記事では、ビジネスパーソンとしての視点から本書の重要なポイントを抽出し、「働く本質」を再認識するヒントをお届けします。
１．苦しかった経験は“武器”になる
◆ 苦しみは、隠すべきものではない
本書の中で森岡氏は、自身がうつ状態に陥ったこと、外資系企業での成果主義の冷酷さ、プレッシャーで押しつぶされそうになった過去を赤裸々に語っています。
「苦しかったことを人に話すなんてカッコ悪い」「ネガティブな過去は隠した方がいい」と思っている人にとって、この告白は衝撃的かもしれません。
しかし、森岡氏はこう語ります。
「苦しかった経験は、自分だけの武器になる」
苦しんだ経験こそが、人間性を深め、他人の気持ちを理解する力を生み出し、何より“語れる言葉”を与えてくれる。これは、単なる精神論ではなく、リーダーシップやマネジメントにおいても極めて実践的な視点です。
◆ ビジネスでの応用：自分の「ストーリー」が信頼を生む
たとえばマネージャーが部下を指導する際、「自分もかつてこんな壁にぶつかった」と伝えることで、部下の心は動きます。単に「やれ」と命じるのではなく、“乗り越えた経験”を通して導くことができるのです。
２．「強み」を活かすことが働く意味を生む
◆ 自分の“戦える場所”を見つける
森岡氏は、自分が「対人関係が得意ではない」「組織の空気を読むのが苦手」といった“弱み”を明確に自覚していました。しかしその代わりに、「論理で物事を考える力」「数字で戦略を組み立てる能力」といった“強み”に徹底的に集中することで、USJを復活させたのです。
「弱みを克服するより、強みを最大化したほうが人は圧倒的に活躍できる」
これはまさに、ドラッカーの「強みに集中せよ」という原則と合致します。企業が個人に求めるものは、「平均的に何でもできる人」ではなく、「一点突破できる人材」です。
◆ ビジネスでの応用：ジョブ型時代における強みの可視化
現代は「ジョブ型雇用」へと移行が進み、自分の強みを明確に説明できる人材でなければ生き残れない時代です。
たとえば転職活動では、「私は〇〇の分野で△△という成果を出しました」と明確に語れることが求められます。本書を読むことで、強みの発見・定義・発信の重要性に気づくでしょう。
３．資本主義の「非情さ」を直視せよ
◆ 現実は「残酷に公平」
森岡氏は、本書のなかで非常にシビアな現実を語ります。
「資本主義は、勝てる人にとっては素晴らしいが、負ける人にとっては地獄だ」
これは現場で働くビジネスパーソンなら誰もが感じたことのある感覚でしょう。努力した人が報われるわけではなく、“成果を出せる仕組み”を持つ人が勝つ。
つまり、感情論や理想論ではなく、「どう勝てるか」を構造的に考える必要があるのです。
◆ ビジネスでの応用：構造で考える力
この視点はマーケティングや経営戦略にも直結します。
・なぜその製品は売れるのか？
・なぜその会社は伸びているのか？
・なぜ自分の部署はうまくいかないのか？
感情で嘆くのではなく、「構造的問題」「戦略的視点」から状況を分析できる人材こそ、ビジネスの中核を担う存在になれるのです。
４．“働く”とは「生きる場所」をつくること
◆ 働くことの目的とは？
森岡氏が本書で伝えたい最大のメッセージは、「働くことは単なる労働ではない」ということです。
働くことを通して、自分の価値を見出し、誰かに必要とされ、自分の“存在理由”を実感する。それが働くことの本質です。
「働くとは、自分の『生きる意味』を社会の中で確かめること」
この言葉は、心が折れそうなとき、自分を取り戻すための指針となるはずです。
◆ ビジネスでの応用：エンゲージメントの源
社員のエンゲージメント（働きがい）は、「給料」や「福利厚生」ではなく、「存在意義の実感」から生まれます。
つまり、組織として個人に「なぜこの仕事が社会に意味があるのか」を伝えることが、真のモチベーション向上につながるのです。
５．子どもに語る言葉が、自分の働き方を変える
本書は「父から娘への手紙」という形式で書かれていますが、それこそが最大の魅力でもあります。
誰かに語るために、自分の働き方を見つめ直す――これはリーダーや親、マネージャーにとって非常に重要な視点です。
「あなたは、あなたの子どもに今の働き方を誇れるか？」
この問いに即答できないとしたら、本書を読むことできっと“自分の軸”を取り戻せるでしょう。
まとめ：この本を読むと、「働くことが誇らしくなる」
『苦しかったときの話をしようか』は、単なる自己啓発書でも、感動ストーリーでもありません。
ビジネスの現場で戦う人が、**「何のために働くのか？」という問いに向き合い、再出発するための“哲学書”**です。
苦しい時代に、何を信じ、どう進むのか。
競争社会の中で、自分の強みをどう活かすのか。
そして、働くことを通して、どう“誰かの役に立てるか”。
そんな普遍的で根源的なテーマを、森岡氏は娘に語りかけながら、私たちにも静かに問いかけてきます。
◎ この記事を読んだあなたへ
もし今、仕事に疲れていたり、働く意味を見失っていたりするなら、
ぜひこの本を手に取ってみてください。
それは、あなた自身の「働き方」と「生き方」を見つめ直す旅の始まりになるはずです。
📘 書籍情報
タイトル：苦しかったときの話をしようか ビジネスマンの父が我が子のために書きためた「働くことの本質」
著者：森岡 毅（もりおか つよし）
出版社：ダイヤモンド社
発売日：2019年4月
定価：1,650円（税込）
コメント