はじめに:「センスがある人」は特別なのか?
ビジネスの現場でよく耳にする言葉のひとつに、「あの人はセンスがあるよね」があります。商品開発でも、マーケティング戦略でも、プレゼンテーション資料でも、「なんかうまい」「カッコいい」「売れる」ものを生み出す人は、まるで魔法を使っているように見えることがあります。
ですが、彼らがもともと「天才的なセンス」を持っていたわけではない――。そう断言するのが、ブランド戦略のプロフェッショナル・水野学氏です。彼の著書『センスは知識からはじまる』は、ビジネスに携わるすべての人にとって大きな示唆を与えてくれます。
本記事では、この本のエッセンスをかみ砕いて紹介しながら、ビジネスにおいて“センス”がなぜ重要であり、どのように磨いていけるのかを深掘りしていきます。
1. センスとは「最適化する能力」である
水野氏は、「センスとは、ある目的に対して最も適した答えを導く能力」だと定義します。つまり、センスとは単なる感性やひらめきではなく、最適化の技術です。
たとえば、ある商品のパッケージデザインを考えるとしましょう。
- ターゲット:30代の働く女性
- 商品:健康志向のスムージー
- 価格帯:1本250円
- 販売場所:コンビニ
この条件に対して、デザインの選択肢は無数にありますが、「この商品なら、白と緑を基調にした、ナチュラルでクリーンな印象がいい」という判断を瞬時に下せる人がいます。これがセンスです。
そしてこの判断は、無意識に行われているわけではなく、過去に見た数多くの商品やパッケージ、消費者行動の知識の蓄積から成り立っているのです。
2. センスの源泉は「知識の量と質」
多くの人が誤解しがちなのは、「センス=先天的な才能」と考えてしまうことです。
水野氏ははっきりと述べます。
「センスは、生まれつき持っているものではない。正しい知識のインプットと、それを判断材料として使う訓練で、誰でも身につけることができる能力である。」
ビジネスで成果を上げている人は、例外なく情報収集に熱心です。成功事例の研究、市場調査、顧客データの分析、競合動向のチェック――。そうした知識の蓄積が、「今、この状況でどう動くべきか」の判断を支えています。
デザインの世界でも、マーケティングの世界でも、「引き出しの多さ」がセンスを支えるのです。
3. 知識を「基準化」することがセンスを育てる
ここで重要なのは、「ただ知識を蓄えるだけでは意味がない」ということです。
知識は“判断基準”として使えるように整理されて、初めてセンスにつながります。
たとえば、あるプロダクトマネージャーが「成功したD2Cブランドは、Instagramで感情を喚起するストーリーを発信していた」と気づいたとします。この気づきを「商品×SNS活用」の成功パターンとして頭の中で構造化し、次回の施策に活かすことで、センスが養われていくのです。
ビジネスでは、このように“知識を基準化し、応用する”ことが成果を左右します。
つまり、センスを高めるには次の2つが必要です。
- 幅広い事例や情報に触れる(知識の蓄積)
- それらをカテゴリー化・構造化して判断材料にする(知識の整理)
4. ビジネスで「センスがいい人」がやっている習慣
では、ビジネス現場で「センスがある」と評価されている人は、日頃どのような習慣を持っているのでしょうか?水野氏の考えと照らし合わせながら、実践的なポイントを紹介します。
✅ 日常の「観察力」を鍛えている
センスのある人は、日々のあらゆる事象を見逃しません。街の広告、商品の陳列、同僚の話し方、取引先の身だしなみ――。そこから「なぜ、こうしているのか?」と考える習慣が、知識と気づきの質を高めます。
✅ 本質的な問いを持つ
「売れるとはどういうことか?」「ユーザーは本当に何を求めているのか?」といった本質的な問いを常に持ち、解を探し続けている人は、仮説構築力が高く、それがセンスの根底になります。
✅ 「なぜそれがいいのか」を言語化する
ただ「なんとなく良い」ではなく、「色使いがターゲット層に合っている」「導線設計がストレスフリー」といった説明ができる人は、センスが他者に伝わりやすく、組織でも重宝されます。
5. センスがビジネス成果に直結する理由
センスのある人は、なぜビジネスで結果を出せるのでしょうか?それは、以下のような場面で判断の精度が高く、実行が速いためです。
● プロジェクト立案段階で「ズレ」がない
最初の企画段階で「ズレている」方向に進んでしまうと、途中で何度も軌道修正が必要になります。センスがあれば、最初から「これだ」と思える案を出せるので、無駄な試行錯誤が減ります。
● 顧客目線を的確にとらえる
センスとは、最終的には「相手に最も適したものを提供する力」でもあります。顧客ニーズを捉える力=センスが高いと、商品の満足度も高まり、売上やリピート率に直結します。
● チームの信頼を得やすい
センスがある人は「なぜそれを選んだのか」「どうしてそれがいいと思うのか」を説明できます。そのため、周囲の理解・納得も得やすく、プロジェクトがスムーズに進行します。
6. 「知識のアップデート」がセンスを進化させる
ビジネス環境は日々変化しています。だからこそ、昨日までのセンスが今日も通用するとは限りません。
水野氏が強調するのは、「知識は蓄積するだけでなく、常にアップデートされるべきものである」という点です。
たとえば、SNSの流行も数年単位で激変します。昔はFacebook、今はInstagramやTikTok、そして音声メディアやAIの台頭も無視できません。
こうした新しい情報に常にアンテナを張り、「今、最も最適な方法は何か?」を問い続けることが、センスをさらに進化させる鍵になります。
まとめ:センスは、鍛えることができる
『センスは知識からはじまる』は、「自分にはセンスがない」と悩むすべてのビジネスパーソンにとって、勇気をくれる一冊です。
私たちは生まれつきの才能に頼る必要はありません。必要なのは、日々の観察、知識のインプットと整理、そしてそれをもとにした判断のトレーニングです。
センスとは、“知識と意識の積み重ね”によって磨かれる、極めて実践的なスキルなのです。
📝行動に移すための3つのステップ
- 気になるプロダクトや広告を観察し、「なぜいいと思うのか」を言語化してみる
- 週に1回、気になったアイデアや施策をメモにまとめて自分の“基準”をつくる
- 異業種の成功事例を積極的にインプットし、「応用可能な知識」として整理する
最後に
センスは、誰もが後天的に身につけられる力です。
ビジネスにおいて成果を上げたいなら、情報を集め、整理し、使いこなす力を高めることが、成功への一番の近道です。
あなたの中にも、必ずセンスの芽はあります。あとは、それを育てるだけです。
📘 基本情報
タイトル:『センスは知識からはじまる』
著者:水野 学(みずの まなぶ)
出版社:朝日新聞出版
発売日:2014年4月18日
価格:定価1,540円(税込:本体1,400円+税10%)
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