■ はじめに:タピオカブームが教えてくれたこと
少し前まで、どこを歩いても目にした「タピオカ屋」。インスタグラムを開けば、透明なカップに入った黒い粒とミルクティーの組み合わせが溢れ、若者を中心に長蛇の列ができていた。あれほど流行ったはずのタピオカ屋は、いまやすっかり姿を消し、見かける機会も激減した。
この現象に対して、「やっぱりブームだったから」「飽きられたんだよね」と片づけてしまうのは簡単だ。しかし、その裏側には「ビジネスとして何が起きていたのか?」という深い問いが隠れている。
今回は、菅原由一著『タピオカ屋はどこへいったのか? 商売の始め方と儲け方がわかるビジネスのカラクリ』をもとに、タピオカブームの構造をひも解きつつ、現代ビジネスに応用できる「商売の本質」について考えていきたい。
■ タピオカ屋ブームの裏側:仕掛けられた流行
本書で著者がまず明かしているのは、「タピオカブームは偶然ではなく、戦略的に仕掛けられたものだった」という事実だ。
特に注目すべきは、次の3つの要素が揃ったことで、爆発的な流行が生まれたという点である。
1. インスタ映えする商品設計
タピオカドリンクは、写真に撮ったときの「映え」を前提に設計されていた。色彩のコントラスト、透明なカップ、キャッチーなロゴ――これらすべてがSNSに拡散される前提で作られていた。
2. 低コストで始められる仕組み
材料費が安く、設備投資も抑えられるタピオカ屋は、フランチャイズや個人事業としても参入しやすかった。結果として、全国的に一気に店舗が増加した。
3. メディアとインフルエンサーの連携
TV、YouTube、インスタグラマーたちが連携して「トレンド」を演出し、ブームが加速。まさに“作られた人気”であったことがわかる。
■ なぜブームは終わったのか?「儲かる」と「続く」は違う
流行はいつか終わる――それはある意味で当然のこと。しかし、本書が指摘するのは「ビジネスとしての設計」に根本的な欠陥があった、という点だ。
1. 商品力が一過性だった
味のバリエーションには限界があり、顧客の“飽き”に対応できなかった。つまり「商品そのものの価値」が持続的でなかったのだ。
2. 差別化の失敗
どの店も似たような商品、似たような価格帯、似たようなマーケティング。価格競争と立地競争に陥り、徐々に淘汰された。
3. 継続性のある顧客設計がなかった
リピーターをどう作るか、顧客体験をどう深めるかという視点が欠けていた。1回の来店を目的とするビジネスモデルでは、持続的な成長は望めない。
このように、タピオカブームの終焉は「商売の持続可能性」の重要性を我々に教えてくれている。
■ 商売の始め方と儲け方の本質
では、本書が提案する「商売の本質」とは何だろうか?単に流行を追うのではなく、永く続くビジネスをつくるための基本原則がいくつか提示されている。
1. 儲かるより、残る商売を目指せ
目先の利益ではなく、長く続く価値をどう提供するかを重視せよ。著者は「継続できる仕組み」こそが真のビジネスの武器だと語る。
2. 差別化は“人”で生まれる
商品や価格での差別化は限界がある。店舗の接客やストーリー、理念、店主のキャラクターなど、「人」を軸にしたブランディングが鍵になる。
3. 顧客の声に耳を傾ける
タピオカ屋が失ったのは“顧客との対話”だった。真に求められているものを感じ取り、柔軟に応える姿勢が、ビジネスには必要だ。
4. 流行ではなく「需要」に向き合う
流行は刹那的だが、「課題」や「ニーズ」は普遍的である。商売を始める際には、何が本当に必要とされているのか、地に足をつけてリサーチするべきだ。
■ ブームに乗ることのメリットとリスク
タピオカ屋の事例からわかるように、「ブームに乗る」ことには明確なメリットと同時に、大きなリスクも伴う。
メリット:
- 短期間で集客できる
- メディア露出しやすい
- 資金回収が早い
リスク:
- 長期的な収益が見込めない
- 競合がすぐに増える
- トレンドが終わると一気に顧客が離れる
これを理解したうえで、「ブームを起点に持続的な事業へつなげられるか」が経営者の腕の見せ所となる。
■ 現代ビジネスに応用する3つの視点
この書籍は、流行商売に限らず、すべての業種に共通する“商売の型”を明かしている。以下は、現代ビジネスに応用可能な視点だ。
① 小さく始めて、早く学ぶ
初期投資を抑え、顧客の反応を素早く収集。タピオカ屋のように“簡単に始められる商売”は、ビジネスの筋トレとしても有効だ。
② ブランドよりも“体験”
商品やサービスの背景にある“物語”や“人との接点”こそが、顧客をファンに変える。接客、空間設計、SNS戦略が鍵を握る。
③ 流行よりも課題解決型モデルへ
ライフスタイルやビジネスの課題に向き合う「ソリューション型ビジネス」は、時代に左右されにくい。顧客の“悩み”に寄り添えるかが持続性を左右する。
■ おわりに:タピオカの次は「あなた」だ
本書を読むと、タピオカ屋のブームは単なる一過性の流行ではなく、“商売の教科書”であったことに気づかされる。
目の前の流行に踊らされるのではなく、どうやって「自分らしい商売」「本当に価値のあるサービス」をつくっていくか。それこそが、これからの時代を生き抜くビジネスパーソンや起業家に求められる視点だ。
あなたのビジネスは、何を提供しているだろうか? そして、それは一過性の流行か、それとも長く続く本質的価値か?
「タピオカ屋はどこへいったのか?」という問いは、私たち一人ひとりのビジネスに向けられた鏡でもある。
基本情報
著者:菅原 由一
出版社:KADOKAWA
判型/頁数:A5判/192ページ
定価:本体1,500円+税(紙・電子ともに1,650円)
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