「自分らしさ」に縛られるな──『自分とか、ないから。』に学ぶ、東洋哲学的・しなやかな生き方

ビジネス

はじめに:「自分を出せ」がつらい時代に

「もっと自分を出していいんだよ」
「君らしさが大切だよ」
「他人と同じじゃなく、自分らしい人生を歩もう」

こういった言葉を、私たちは日常でもビジネスでも頻繁に耳にします。SNSでは「自分探し」「個性」や「オリジナリティ」が称賛され、就活やキャリア形成の場では「自分らしさ」が求められる。

しかし、そう言われるほどに、苦しくなる人も多いのではないでしょうか?
「“自分”ってそもそも何なのか?」「“自分らしさ”ってそんなに重要なの?」と。

そんな問いに、驚くほどシンプルかつ深遠な答えを投げかけるのが、しんめいP氏による書籍『自分とか、ないから。』です。

この本は、仏教や道教、儒教といった東洋哲学の教えを、現代の悩みに合わせて解説した哲学書。難解な思想をポップに、ユーモアたっぷりに語りながらも、その本質は鋭く、読者の思考を揺さぶります。

今回はこの本を手がかりに、「自分らしさ」という幻想から解放されることで、より楽に、より柔軟に生きるための視点を、ビジネスと日常生活の両面から考えてみましょう。


第1章:「自分とは何か」を疑うところから始めよう

東洋哲学では、「自分=固定された実体」とは考えません。

仏教では“無我”という言葉があります。これは「我(エゴ)は実体がない」という考え方。すべての存在は関係性や条件によって成り立っており、独立した“自分”などない、ということです。

例えば、会社の中での「自分」は、肩書や職務によって形作られています。
家庭に帰れば、親や配偶者としての「自分」に変わる。
SNSでは、また違う「キャラ」を演じているかもしれません。

このように、“自分”とはひとつの確固たるものではなく、環境や関係性によって流動的に変わる存在なのです。

▼ ビジネスへの応用:

チームマネジメントやリーダーシップにおいても、この視点は有効です。
「自分の意見を押し通すリーダー」ではなく、「場に応じて柔軟に変化できるリーダー」が今、求められています。


第2章:「無理に自分らしさを演出しない」ことの効用

SNSや職場で、「こうあるべき自分」を演出しすぎると、次第に苦しくなってきます。

たとえば、完璧な上司像を演じようとして、疲弊してしまった経験はありませんか?
あるいは「私はこういう人間です!」と自己PRしてしまったがゆえに、それと矛盾する言動ができず、身動きが取れなくなることもあるでしょう。

『自分とか、ないから。』では、こうした“自分に縛られる苦しみ”からの解放を勧めます。

「その時その場で、自然に対応すればいい」
「自分がこうだから、ではなく、状況に応じて変わればいい」

これはまさに、東洋哲学の「道(タオ)」の思想です。固定的な自己イメージを捨て、流れる水のように柔軟に対応することが、むしろ“自然”で“楽”なのです。

▼ 日常生活への応用:

育児でも人間関係でも、「こういう母親(父親)でなければならない」「私はこういう性格だから」と思い込むと、苦しくなります。
「その都度、ベストを尽くす」くらいの柔らかさを持つことで、心が軽くなります。


第3章:「空(くう)」という発想がもたらす自由

本書では、仏教思想の重要概念「空(くう)」にも触れています。
「空」とは、「すべてのものは実体がなく、因縁によって一時的に成り立っている」という思想。

これを現代風に言い換えれば、すべては流動的で、決まった“正解”など存在しないということ。

つまり、「こうでなければならない自分」も存在しないし、「これが正しいビジネスのやり方」も絶対ではないということです。

この発想は、ビジネスにおいて非常に強力です。

▼ ビジネスへの応用:

VUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)の時代には、「絶対的な戦略」よりも、「変化に適応できるマインドセット」が重要。
空の思想を取り入れれば、「正解」を探すよりも、「今、ここに最適な行動を選ぶ」という柔軟さが身につきます。


第4章:東洋哲学的「ゆるさ」が、ストレス社会を救う

現代は、自己啓発書や成功哲学にあふれ、「理想の自分」「最強の自分」にならなければならないというプレッシャーが強い時代です。

しかし、東洋哲学はまったく逆のことを教えます。

「なりたい自分になることを目指すのではなく、今ここにある“ありのまま”を見つめよう」

しんめいP氏も、本書の中でこう言います。

「“自分”という概念が幻想だとわかれば、もっと楽に生きられる」

つまり、「自分をもっと高めなきゃ」と焦るのではなく、「今ここで起きている現象を観察し、それに応じた反応をする」ことこそが、本質的な生き方だというわけです。

▼ 日常生活への応用:

たとえば、「朝活しなきゃ」「週末に勉強しないと」と自分を追い込むよりも、体調や気分に合わせて緩急をつけることのほうが、継続的でストレスが少ないのです。


第5章:「教養」としての東洋哲学を持つ意味

本書の副題は「教養としての東洋哲学」。
つまり、これは“知識”として身につけるだけでなく、日常の行動や思考を根底から変える力を持っています。

ビジネスにおいても、キャリアにおいても、人生においても、“自分”という幻想にとらわれすぎず、柔軟に変化に対応する力がますます求められています。

その意味で、東洋哲学はまさにこれからの時代の“教養”であり、人生をより深く、楽にするための「心のOS」のようなものです。


おわりに:「自分とか、ないから。」で得られる自由

しんめいP氏の語り口はユーモアに富みつつも、鋭く、読者の深層心理に問いを突きつけてきます。

「自分らしくあれ」という言葉に疲れたとき、
「自分がわからない」と悩んだとき、
「何かにならなければ」と焦るとき──

そんな時こそ、この一冊を手に取ってみてください。

「自分とか、ないから。」という気づきは、あなたの生き方と働き方を、もっと自由にしてくれるはずです。

📚 書籍情報

  • タイトル:自分とか、ないから。 教養としての東洋哲学
  • 著者:しんめいP
  • 監修:鎌田東二(京都大学名誉教授)
  • 出版社:サンクチュアリ出版
  • 発売日:2024年4月23日

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